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ボローニャの天使

オーストラリアに移住する前、ヨーロッパへの、

中でもイタリアへの移住を夫と真剣に考えていた。

イタリアの文化、デザイン、そして食に惹かれて度々その地に旅行していたが

数日の滞在では飽き足らず、その街で暮らしたい。そんな想いを募らせていた。


結局VISAや現地の職探しの困難さを見聞きするうちにそれは断念したのだが、

今から7年ほど前、1歳になったばかりの娘を連れて1ヶ月、

北イタリアで生活したことがある。

ボローニャで2週間、レッジョ・エミリアに2週間。


忘れがたい滞在だった。

何よりまだ小さな娘を連れてあるくと街の人は老若男女皆笑いかけ、話しかけてくる。

フードコートで大泣きする娘に鍵を振ってすっと泣き止ませてくれたのは

隣に座っていた6、7歳くらいの女の子。


電車の向かいで1時間半ほど娘をあやしていたのは、

黒いメーキャップが一見怖いようなお姉さん。


一度観客は大人ばかりの夜のサーカステントにも娘をつれていったが、

その劇中音が止み静まり返った瞬間に娘が大声で泣き出してしまい慌て青ざめたら、

まるで演出のキーのように観客も舞台上の人々も次の瞬間に大笑いして

受け入れてくれたことも忘れられない。


ボローニャで滞在したのは週貸しのアパートメント。

中心地にほど近く、キッチン、バス、二つのベッドルームがある心地よい場所で

オーナーのマルコは何かと気をまわしてくれた。

到着した日には「赤ちゃんがいるなら知らせてくれればよかったのに!その準備をしたのに!」と

優しく迎え入れてくれた。


夢のような2週間があっという間に過ぎ、ボローニャを去る最終日の前日。


下の階の若い女性が訪ねてきて、夜中に赤ちゃんの声や

オルゴールの音楽がうるさいので静かにして欲しい、

と言われてしまいお詫びをしてもうここを去ることを伝えた。


そのことを最後鍵を渡す時にマルコに伝えるととても悲しそうな顔をして、

「そんなことは言うべきじゃない。気にしないでいい」と。

苦情を言われてしまったことは申し訳なかったが、

余りあるほどの優しさを周囲から受けていたので

そのことはこれを書くまで実は忘れていたのだが。


そのお別れの時に、彼が美しい日本風の布張りの箱に用意してくれていたのが、

このボローニャ産の陶器の天使だった。裏にはマルコのサインが入っている。



前の家ではバスルームの壁に。今ではキッチンの壁に。いつも目に入るところに飾っている。


この天使を見るたびに、マルコの、ボローニャのサーカステントの、そして滞在先で出会う

名も知らぬ人々の優しさが思い出される。


イタリアという国はいつまでもその優しさとともに私の心の中にある。

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