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Vogue Italia

20代の頃、東横線沿線に住んでいた頃歩いていける駅前に古本屋があった。

漫画、小説、ゲーム、あらゆるものが雑多にうず高く積まれる中、

一際洋雑誌やデザイン書、美術館の図録が多かったように記憶している。

多分、周囲にその本を仕事で使う人々が住んでいて、

そこに売りに出していたのだろう。


香水のサンプルがプンプン匂う洋雑誌のエリアで

ペカペカした大きな表紙のVogueではなく

マットな質感と小さな判型に

シンプルなタイポグラフィーのみが刻まれた

Vogue Italiaを見つけた。


辞書のように分厚いそれをパラパラめくると、

深く沈むような色の中に

単なるファッションでも服でもスタイリングでもなく、

映画のように作り込まれた世界が詰め込まれていた。

一冊、また一冊とその度に仰天して買い集め続けた。

1冊350円か450円だったと思う。



初めてみる表紙を見かけては、少しずつそこにある全てを買い集めた。

90年代初期から2000年代にわたるもので、(当時は2003、4年頃)

「雑誌の特集」で想像するページ数をゆうに越えた

ロードムービーのスティル写真集のような特集を食い入るように見つめた。

好きなものを切りとることも惜しいぐらい繰り返し眺めて、

Steven Misel, Peter Lindbergh, Tim Walker, Deborah Turbeville, といった

カメラマンの名前を自然と覚えていった。

特にTim Walkerの幻想的で、かつ牧草の匂いのするような写真が好きで

彼の特集を見つけると宝を探し当てたようだった。


フランカ・ソッツァーニという一人の女性が

長い間ずっと変わらず編集長であったことはだいぶ後から知った。


仕事で何かイメージやインスピレーションが必要な時

いつもめくるのはこのアーカイブ達で、過去の雑誌なのに

先見性に満ちたテーマの中にいつも考える手がかりがあった。

Vogue Italiaを通じて自分が心から打たれる

クリエイションに触れ続けたことは今の自分の一部である。


2000年代が深まるうちにファッションの世界が

過剰にセクシャルになっていき

女性のボディを過度に強調したり、喘ぐ表情等

直接的にセックスをイメージする写真が増え

Vogue Italiaもその例外ではなく次第に

楽しんで見られなくなってしまったことと

定期購読していた洋雑誌の会社が倒産し、

新しい号を買い続けることはいつしかしなくなった。


とてつもなく重くかさばるが

厳選した数十冊は船便で運んだ。


子供の絵本が増え本棚あけなくてはならなくなり

今回すべて取り出してみた。

ダウンサイズするためにページをめくると

時代がめぐってまたこれは、これは、と手がとまる。


フランカ・ソッツァーニがこの世からいなくなり、

印刷媒体もまた消えゆく中でこれらと同じ濃度で

今後雑誌が生み出されることはないだろう、と確信する。


いずれ手放す日まで。


まだ手元でページをめくり続ける。


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